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モンターグの貸出票

返却期限を過ぎました。

acknowledge the elephant in the room

「ねえ!みてみて!ネンド象!」 「どうみてもストーンヘンジなんだけど」 「ストーンヘンジっナンジャコラ!象じゃん!ちゃんと俯瞰してますか?ゾ・ウ・じゃん!」 「駄洒落を思いついたまでは良しとしよう。そのためにわざわざ粘土を買ってきた姿勢も涙ぐ…

OLお昼に中華屋へ

お昼休み。私と冴子は最近職場の近くに出来た中華料理屋にやって来た。「中華飯店 桂馬」この実にスレスレな感じが私達を引き寄せた。店頭には春先にも関わらず「冷やし中華はじめました」の立看板。 「うっそ、もう始まってんの」 「季節先取りってかんじだ…

ヴァンパイア倦怠期

血を吸い飽きた。長年こんなことを続けていよいよ意味が分からなくなってきた。人間が食事に飽きますか?知らん。そんなことは全然知らん。だって私は吸血鬼だもの。人間せいぜい百歳ちょっとの寿命に対して既に千歳を越えて数えるのもやめた私が血を吸い飽…

優等生

病的になったり、思い出して悲しみにくれたりしないでいても、人生に悲しいものがあるということを告白しなければなりません。それがなんであるかは申しあげることはむずかしいのです。 (マンスフィールド「カナリヤ」) 中瀬秋は図書室で封筒に入った一枚の…

でんせつの剣

私がそこに到着した時には真壁琴美が地面に突き刺さった、おそらく剣のようなものの前で立っていた。私の自転車がたてたブレーキ音と地面とタイヤの擦れる音に気がついた真壁はこちらに振り返るなりこう言った。 「でんせつの剣になります」 「真壁、よく考…

シールの世界

シールが好きです。幼き日より壁にシールを貼りまくって叱られていた私はその情熱を静かに、しかし絶やすことなく灯し続けてまいりました。 私が小学校低学年の頃、級友の間ではシールの交換が流行していました。各々シール帳なるコレクションノートのような…

新しい朝

新しい朝が来た 希望の朝だ喜びに胸を開け 大空あおげラジオの声に 健やかな胸をこの香る風に 開けよそれ 一 二 三 (「ラジオ体操の歌」) 昨晩から妹が私の部屋に転がり込んで来ていた。妹は旦那と喧嘩したらしく、家出して私にしばらく泊めてほしいと言った…

巨匠と薄まな板

オランウータンの面倒を見だして早三年。私の社会人生活は巨匠と呼ばれるハゲ猿との格闘の日々であった。 「キョショー?」 「最初はキヨシだったんだけどね。なんていうかあの風格だろ?みんな巨匠って呼んでる」 「はあ……」 「大変だと思うけどさ。まああ…

墓地のあの人

通りの向こうに墓地がある。来る日も来る日もあの人はそこにいた。伸びた髪、無精髭。背は高くがっちりとした肩が逞しい。一度も目を合わせたことがなかった。一度も口を聞いたことがなかった。あの人はいつも足下の、誰かきっとあの人の大切な人が眠る場所…

放たれざる生

私には花粉症の人間の気持ちがわからなかった。私は花粉症ではなかったから。この時期はスギがすごいらしい。けれどスギに悩む人間も、人間悩ませのスギ花粉の気持ちも私にはわからなかったのである。 早朝。私はたまたま通りかかった山道で、一匹の猿が飛び…

春になったら

私の祖父は腹話術師だった。町内の幼稚園なんかに呼ばれたりしてそれを披露した。私もまだ園児だった頃、祖父の腹話術を園で見ることがあった。私はひょうきんな演技で子供達を笑わせる祖父が誇らしくもあり恥ずかしくもあるという自我の芽生えの最中で、家…

トスィーエと待つ

私は帰りを待っていた。あの人の帰りを。だけれどあの人は帰らなかった。今のところは。そう思えど「帰らなかった」と過去形の過ぎ去りし日々は私にもう希望を持たせないように一匹の犬を置いていった。名前はトスィーエ。変な名前だがあの人がつけた名前だ…

ジョン・コナーの初恋

従姉妹のシュワちゃんが結婚する。シュワちゃんとは年も六つ違いで、俺からしたら大人のお姉さんという印象があった。それでも実家同士が近所だったので子供の頃は一緒になって遊んでいたこともある。水鉄砲を撃ちながら屈託のない笑顔をしていたシュワちゃ…

loss an angel

「わたしここでドロンします、シュシュシュ」 そう言って長澤まさみは僕らの前から姿を消した。あれから幾年もの時が過ぎて、その間に様々な出来事が起きた。山は噴火を繰り返し、雷鳴は延々轟いて、暴風勢い鳴り止まず、大地はひび割れ邪神は復活を遂げた。…

Embarrassing Today

階下から母親の声が聞こえてくる。自室ではけたたましい音で目覚まし時計が鳴り響き、携帯電話のアラームも何度目かのスヌーズを更新していた。それでも菱谷弥生の覚醒はいまだその時を迎えなかった。「あと五分……」それが積み重なって五分の概念が覆される…

犬のお巡りさん困ってしまってホンキー・トンキー

「ちょっと君?こんな遅くに何してんの!」 「深夜徘徊」 「……。だろうね!ダメじゃんか!君、未成年でしょ?」 「成人済み」 「はあん!?なら身分証見せて」 「身分……」 「免許証とか保険証とかあるでしょ?マイナンバーでもいいよ」 「人には身分や体裁を…

一月二日

久しぶりに祖父に会った。彼が私のことなどどこの誰かも分からなくなってしまって久しい。積極的に言葉を(声として)発することもない。ベッドの上で穏やかにうたた寝していたところに私は顔を見せた。 「こんにちは」 まるで他人行儀な私だ。 祖父との想い出…

一月一五日

早く起きて散歩した。むちゃくちゃ寒くて後悔した。けれど体を動かすことに意義があると信じた。寝床は底なしの沼であり足をすくわれる前に抜け出なくてはならない。引き抜かれた直後のマンドラゴラが如き悲痛な呻きとともに目覚め、なんとか奮い起たせた鉛…

きょむクモッ!② 犬神八ツ墓ドグラ村殺人事件 其ノ一

どうも、お久しぶりです。蟻吉です。すっかりご無沙汰なのでお忘れの方も多いと思いますが詳しくは「きょむクモッ!① - モンターグの貸出票」を御覧ください。 さて、どうして僕が再び登場したかと申し上げますと、僕たち同好会《きょむクモ》が遭遇したとあ…

ワイン農家の娘と風車小屋の住人

あの風車小屋には誰かが住んでいて、その誰かはとても頭のおかしな人だから、わたしと弟は両親から決して近づかないようにと子供の頃から言われてきた。 わたしの家はワイン農家で、この時期は収穫を終えた葡萄をいよいよお酒に加工していくのだ。今は衛生上…

ジョイスノート:2「ある出会い」

アメリカ西部劇の世界をぼくらに紹介したのは、ジョー・ディロンだった。彼はわずかながら蔵書を持っており、《ユニオン・ジャック》や《勇気》や《半ペニーの脅威》の古い号の雑誌類である。毎夕放課後、ぼくらは彼の家の裏庭に集まり、インディアン戦争ご…

ジョイスノート:1「姉妹」

故あってジェイムズ・ジョイス『ダブリンの人びと』(ちくま文庫 米本義孝訳)を再読しています。これはいつだかの誕生日に友人が贈ってくれた一冊で、今一度手に取ってみると表紙は擦れて帯は一部破れてしまっています。なぜ今ジョイスかといえば最初に申し上…

墨流し

もう日が経つけれど、万年筆を洗った。どうやら万年筆は折にふれて洗わないといけないということでやってみようと思った。洗う万年筆は二本。誕生日に買ったペリカンと、その前から持っていたエルバンの安いやつ。ペリカンは吸入式といって尻のノブを回して…

ドーナツ化船長

「もう一度確認します。あなたはキャプテン…….なのですね!」 「なんど言えば分かってくれる?私は紛れもなくこの船のキャプテンだ。少なくともここから半径10メートル以内で私ほどキャプテンなキャプテンはいない」 「生年月日」 「3069年4月26日。同じ誕生…

鳥獣保護区

「ですね。ここは鳥獣保護法に守られた鳥獣保護区でありますから、鳥獣は保護されています」 ダンッ! 「今何か大きな音が」 「大したことじゃありませんよ。なにせ鳥獣保護法によって守られた鳥獣たちのための鳥獣保護区ですよ。鳥獣が銃撃されるわけもなけ…

Strange banana & Monkey’s magic

祖父はとにかく目新しい電化製品が発売されると年金の大半を注ぎ込んで購入するのが趣味というか癖みたいな感じだった。祖父の自室は彼の玩具箱で踏み場もないのにルンバがあり、ダイソンの掃除機と扇風機があり、電子辞書、ハンドミキサー、スチームアイロ…

鬼退治部

槇山は焦った。思いの外、鬼という生き物は強かったのである。後輩の須々木が鬼の大木のような腕で薙ぎ払われ壁に叩きつけられ血を吐き瀕死の重体に追い込まれ、須々木とは彼氏彼女の関係だった深津が大声で泣き叫んでいた。 鬼ヶ島B地区。それが彼ら県立牛…

さいは投げられた

さいは投げられた。体長三六〇センチ、体重二・二トン。おとなしい性格で争いを好まず、日中は日陰で過ごし、偶に水辺に出ては水を舐め、いつも決まって檻の右端に糞をする。独居老人のような風情の優しいシロサイ、マーノルド(愛称、マーちゃん)は投げられ…

英語の先生

大学の受験を控えた私に得意な科目などなかった。強いて挙げれば現代国語がなんとなく読めるだけであとはからっきしだった。そんな折に私は一人の恩師と出会う。その人はもともと私が通った学習塾の講師でなんやかんやあり独立されたのだけれど当時の生徒を…

六月二六日

はじめての読書会。一応何回か読んでノートにまとめたり、持参した件の課題本や同作者の別作品も一度と取り出すことなく終了しました。この「はじめて感!」。 読書会一割、身の上話九割。これは友達とお酒を飲んだだけでは?という問いに対して私はこう答え…

好きな映画の話 その4

プルートで朝食を [DVD] 出版社/メーカー: ポニーキャニオン 発売日: 2006/12/22 メディア: DVD 購入: 1人 クリック: 22回 この商品を含むブログ (89件) を見る 「はあ〜、もうポジティブとかネガティブとかウンザリだわ」 「ふーん、なんかあった?」 「言…

頬杖ガーゴイル

昼下がり。 「見た?畠田のやつ。あいつ石みたいに固まっちゃってさ!あははは」 「あれウケたよねー!ぜってー童貞!童貞けってー!」 「メデューサ……や、コカトリスもしくは原生たるバジリスクか」 「……ミナト?」 「石化でしょ?石ということであればメデ…

BABY IN CAR

僕は助手席に彼女を乗せて車を走らせる。僕の最愛の人。僕は彼女との血のつながりに感謝する。僕と彼女が家族である。その事実が僕にとっては最大の幸福であると信じて疑わない。 「どこに行こうか?」 ちょっと不安げな彼女は言葉がおぼつかない。今にも泣…

はかいこうせん

「いいかね諸君?天性のシャイボーイなんてのはねはっきり言って生き難いのだよ。それが他人事としてのイメージだと可愛らしいだとかそんなことで片付く。じゃあシャイボーイがそれを真に受けて個性にしてしまい我道を貫きシャイおっさんになったらどうする…

六月一八日

一通りの予定を終えて帰る道すがら。向かいからやって来たご婦人に呼び止められる。道でも聞かれるのかと思いきや、待ち人来ずで浮いた地下鉄一日乗車券、それを私にくれるという。申し訳ないんで、もう帰るだけなんでと言いかけては両手を持ってそれを手渡…

きょむクモッ!①

深町塔子(ふかまちとうこ)は芋を掘っている時にひょっこり顔を出したモグラを踏んづけ首の骨を折って絶命させてしまう。塔子に故意はなかったとはいえ絶たれた命はかけがえのないそれである。塔子は哀しかった。自分が芋掘りに興じたあまり生涯を終えたモグ…

君がいない夜だってそうno more cryもう泣かないよ

「顔が濡れて力が出ない〜」 アンパンマンは性懲りもなくバイキンマンの水鉄砲を顔で受けとめた。いつもと違ったのはジャムおじさんが胆石の手術で不在だったのとバタコさんの髪型が寝癖でアクマイザー3の真ん中の奴みたいな形になってしまい虫の居所が非常…

ガムを踏む

マラソン大会。一緒にゴールしようね、マミカちゃんはそう言って先頭集団。あたしは置いてけぼりの殆ど最後尾。本気出してこれ。マミカちゃん?どうしてあんなこと言ったの?そんな質問も届かない二人の距離。にしてもゴールはどこ?全然見えない。半分歩い…

六月一二日

父の日、そんなものは初めからなかった。そう考えて自分へ万年筆を贈った。それが意外に早く届いたため、気を抜いていてインクを揃えていなかった。折角手元にあるペリカンの万年筆を私は眺めたり、しゃぶったりしても良いか?と問い理性で諌めたりすること…

寓話の新訳

シエパドは街中を練り歩いた。誰にも聞こえるように彼は叫ぶ。「狼が出た!狼が出たぞー!」 街の人々は狼を怖れていた。 狼、それはかつて国家に所属した憲兵治安介入部隊の成れの果て。事は十年を遡る。当時の国家主席タップドッグの命令によって敵対する…

光合三年生

十八歳の夜、就寝のために消灯するとどうも落ち着かない。暗所を嫌う理由などこれまでの半生を振り返ってみても見当たらない。この違和感は何か、そう思って手の辺りを見るとそれは蛍光色の仄かな明かりを灯していた。気のせいだと思って目を閉じるも気にな…

インタヴュアーイズヴァンパイア

「私はヴァンパイアです」 彼ははっきりと言った。近日公開予定の私が主演を務める映画『テンはネコ目イヌ亜目』の宣伝を兼ねたインタヴューの機会で。その記者は見た目は至って普通の中肉中背、何処にでもいるサラリーマンといった感じだった。名刺には「花…

フローベールの庭

庭に住み始めたカラス。私は彼だか彼女だか、その一羽の黒い鳥にフローベールと名付けてやった。フローベールは朝が近づくまだ日の昇らない暗がりで喧しくカアカアと鳴いた。私はフローベールの鳴き声に目を覚まし、縁側から庭を見る。声のする方はまだ暗く…

座りヶ丘ファミリータウン

私が住まう土地は自然が豊かで野生の動物も気楽に暮らすような牧歌的様相を呈している。私は妻と話し合って、間もなく生まれてくる娘のためにこの土地に越してきたのである。相談に乗ってくれた不動産屋は、決して便利は良くないが人気のある場所だと言った…

六月四日、六月五日

誕生日でした。路の節目も三度目。その十一年早く生まれたアンジェリーナ・ジョリーも一つ年をとる。アンジー、おめでとうございます。 折角だから特別なことをしよう、そんなふうに考えてもなかなかどうして生活のリズムとは変えられないもので借りっぱな…

無人島に持っていく10枚

音楽に携わる仕事をしていると時折こういった企画にあたる。無人島に持っていく10枚。誰もいない孤島で一人、音楽でも聴こうかというのはどういう気分か?そんなことはともかくただお気に入りの10枚を論うわけなのだが、えー、っと……無人島なう。 今、私は…

一期一会

「パフッ、ッザマージダーゴン、暮らしてた♪」「何やいきなり」「パフは魔法の竜で暮らしてたんだよ」「そうか」「パフッ…………ッザマージダーゴン、暮らしてた♪」「ほやから何や!何でさっきよりちょっと溜めたん?」「パフはジャッキーと仲良くやってたけど…

大冒険

昔、小学生だった。小学生だったのだ。ツラい。それはさておき小学生だった私は授業の一環として創作紙芝居を作成する機会を得た。私はこの頃からそういうことが大好物で、宿題に感謝したのは後にも先にもこの一回である。私は早速取り掛かった。下敷きにし…

大麦若葉、贈呈です

その男、かつてヒットマン。しかし殺伐とする闇社会が毎日に疲れ果て足をモイスチャーフィニッシュ。男が次に選んだ職。ヤクルトレディ。「すね毛ボーボーすけどいいすか?」「まあ、ええんちゃうか」 男の名はナミダメ・カナシス。哀愁を担う豊麗線。今日…

ゆかり

むらさきの色こき時はめもはるに野なる草木ぞわかれざりける武蔵野の心なるべし 伊勢物語のある一段。武蔵野の心なるべし、とは古今集に見れる詠に基づく。むらさきの一本ゆえに武蔵野の草はみながらあはれとぞ見る(詠人知らず) むらさきの草一本そこにあれ…