アントーニオの肉一ポンド

返却期限を過ぎました。

フルーツパーラー

山の方へ男達が列をなして登っていく。なんでも竜が出たとの噂でそれを退治しにいくのだとか。ここのところずっと見かける。私は本当に竜が出たのならやはり身の危険を感じるからかさっさと退治してほしいとは思う。けれどあの男達が肩にかけた猟銃で果たし…

十二姉妹

カロンは夜明けの寝室でカーテンの隙間から射す光を見つめた。ありとあらゆる可能性を殺されてしまった動く標本は本人達が望んだわけではなかったもののカロンの魂を癒していた。無意味な翅。絶望の最中にあって死を選ぶことも許さずとするカロンの態度は傲…

高山羽根子「ホテル・マニラの熱と髪」

高山羽根子氏が好きになったのは三年ほど前のゴダール特集を組んだユリイカに掲載されたエッセイがキッカケだった(ように思う)。「「了」という名の襤褸の少女」と題されたそのエッセイの内容は正直言って殆ど覚えていないが、たとえば小説を書いてみるとき…

汗をかいて濡れたワイシャツ、冷房に冷やされて

日曜日は午前中から昼過ぎまで仕事で、それが終わったら帰ろうと思っていたがせっかく外に出たのだからと本屋に寄ることにした。ある古本屋でジョン・ヴァーリィの短編を二冊買う。新刊書店でも買えるものだったがそのために移動する気力もなかったので。 最…

疎通

麻酔銃。それはヒグマなどに対して用いられるものをトムはキミーの尻に誤射してしまう。生憎キミーは猛獣ではなく、この町に住む大学生の一人でしかなかったためヒグマの倍速で気絶した。ヒグマにとっての麻酔が町の大学生にどのような影響を及ぼすか、そう…

草むしり

僕等安息もなく悩んでいる意志によって造られた者たちは、残らず同胞なのだ。そのくせ、僕等はお互いにお互いがわからない。 (マン「餓えた人々」) 細長く切った紙。その端に糊を塗って輪を作る。いくつもいくつも。やがて机いっぱいに出来上がった紙の輪を…

ガソリンスタンド

朝から曇り空で今にも雨が降りそうだった。辺境の給油所には運輸トラックが疎らに往来した。暇なのはいつもの話で天候の影響というのはほとんど見られない。それでも父親のジェフは安酒を朝っぱらからあおって「こんな天気じゃ商売あがったりだ!」と愚痴を…

故郷

夫は宇宙人。私たちが住む地球も宇宙の一部とするなら私たちも宇宙人だからと両親に啖呵を切って結婚した。実家には帰ってない。年の節目に会うこともなく絶縁状態だ。夫は都度都度「ごめんね」と言った。私はたんびに謝ることなんか何もないと言った。見た…

Every man thirsted

「好きだ!」「愛してる!」その手のセリフを100回言い終えた時、口の中は乾ききっていた。皿いっぱいの山盛り粉吹き芋を一口で頬張った時、人は渇きによって殺されると聞く。呼吸が塞がれたわけではなかったが、かつて試みたミルハウザー5時間ぶっ通し音読…

もう夏になるというのに朝目が覚めて窓から見た外は辺り一面真っ白な雪原だった。前夜は鼻先に雫の滴りを感じる程度の小雨が降ってはいたが、それが一夜雪になったとてこれほど積もるだろうかという戸惑いがあった。薄い寝間着では肌寒く思わずジャンパーを…

灰中つきみ「砂漠に咲く禽」

もう完全に灰中つきみフォロワーの私で、灰中つきみカテゴリーを作ってしまおうかという具合です。筆名に滲む終末感、そしてそれを体現する文章の調子が夜中読むに丁度良い心地を齎してくれます。 さて新作が上がったので早速読みました。題は砂漠に咲く禽。…

儀式

小学生。初めて手に入れた筆箱は車の絵が描かれた、横っちょのボタンを押すと鉛筆削りや消しゴムホルダーがパシュッと飛び出すギミック付きの青いそれだった。それから一年おきに学年が一つ上がるたび筆箱は新調された。中学生。それまで基地のようだった筆…

曖昧

彼らは金属製の天板をした机の上に穀物と思われる何かしらを何らかの器具を用いて粉末状にしたと考える白っぽい粉に水そのもの或いはそれに似た性質の正式には断定できない液体を練りこんで柔らかな弾力性のある団子状に成形したものをひたすらに叩きつけて…

灰中つきみ「月染めのマリートヴァ」

まず思ったのは「マリートヴァとは?」ということでした。読むにしたがって登場人物の名前であることはわかりました。しかしマリートヴァという名前がポンと浮かぶなんてとたじろいだ次第ですが、その意味が末尾にて説明されていてなるほどと思ったのでした…

優等生

病的になったり、思い出して悲しみにくれたりしないでいても、人生に悲しいものがあるということを告白しなければなりません。それがなんであるかは申しあげることはむずかしいのです。(マンスフィールド「カナリヤ」) 中瀬秋は図書室で封筒に入った一枚の便…

オーパーツ

機械が可愛い。そんな感情があると思う。父が通販で購入した謎の機械が届いたのは一週間前だった。丁度父の葬儀を終えた日だった。注文したまま到着を待たずして父は他界した。突然のことだった。仕事から帰宅した父は自室に着替えに行ったまま出て来ず、私…

どろどろしたものはデザインしにくい

逸又かなえのスライムはカチカチに硬くなっていた。八つの折にロフトで買ってもらった黄色いスライムだった。かなえはその匂いがそこはかとなく好きではなかったが冷んやりとした感触はそれを凌駕した。ところが最近になっていろいろと気がかりなことが増え…

テルミー

本多由はSay You Say Meについて考えていた。ライオネル・リッチーのヒット曲であるこの詞の意味について。文法的にも口語としてもよく分からない言いまわしで直訳すると「私を言うと言ってくれ」となりますますわけが分からなくなった。ただ一つ分かること…

腸炎ビブリオバトル

今話題の(かどうかは正直よく分からないし既に当たり前の事象なのかもしれないけれど)Vチューバー。ヴァーチャルユーチューバーとかもはや何者? というくらいには歳をくった私ですが、それ自体を話題にしたいわけではなくてその某Vチューバーのアーカイブ放…

映画館という提案

最後に映画館に足を運んだのはいつだったかというようなことを考えてみると日記から三年前だったことが分かる。『草原の実験』という映画をひとりで観ている。 かつて映画館は僕の中でひとりで訪れるには抵抗ある場所だった。それがいつの間にか誰かと一緒に…

ウエルベック「闘争領域の拡大」

闘争領域の拡大 (河出文庫) 作者: ミシェルウエルベック,Michel Houellebecq,中村佳子 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2018/02/06 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (1件) を見る 闘争領域の拡大 作者: ミシェルウエルベック,Michel Houellebecq…

手に負えなさ

それは何でもいいのだけど、たとえばレコード屋に入った時、誰かの思い出があり、誰かの宝物があり、誰かの探し物があると思う。それを他の誰かは知らなくて、レコードは商品として並べられているに過ぎない。そこへ音楽をかじり始めたばかりの少年少女が現…

私のハーゲンダッツ

おじいちゃんが呆けてしまったのは私が大学入試前のことでした。その日いつものようにおはようと言った私をおじいちゃんは怪訝な顔で見返して「どちらさんですか?」と私に言いました。もともと剽軽な性格のおじいちゃんだったので初めは冗談だと思って「や…

春になれば悪魔は

恋しちゃったんだ たぶん 気づいてないでしょう? (YUI 「CHE.R.RY」) 小学二年生の頃、菊永君はこの町に引っ越してきた。小学三年生の頃、菊永君はこの町を引っ越していった。それっきりだ。それっきりという言葉は物哀しい。それっきりなにもないことだけ…

魔族の人生観

愛は技術だろうか。技術だとしたら、知識と努力が必要だ。 (E.フロム「愛するということ」) 「これがシャトーブリアン」 「シャトーブリアン……」 「んで、こっちが京極夏彦」 「シャトーブリアン」 「ちがうよ! 分厚さは似てるけどこれは京極夏彦なの!」 …

愛を知りゆく日々

お姉が離婚して三年。我が好川家では紗雪が三才になった。紗雪とはお姉と元旦那との間に生まれた子供である。お姉は紗雪が産まれるかどうかというタイミングで離婚を決めた。原因はよく知らないが元旦那の浮気とかでそれはそれで最低なのだが、お姉はお姉で…

舞城王太郎『淵の王』

これだ。今、ここだ。 舞城王太郎の長篇をきっちり読むのは二作目になる。初めて読んだのはブルータスに載った短篇で、シンプルながらももどかしい少年少女の恋愛譚にニマニマしながら読んだと記憶するが、長篇は縁あって薦めていただいた『煙か土か食い物』…

夕暮の齢

大人になったら僕はもう子供ではいられないんだ。そう思うといつまでも子供でいたい僕は星が右から左へ、はたまた左から右へと流れるのを期待してずっと夜空を見上げてた。けれどいつまでたっても星はその場で輝き続けるだけで、時折赤い月が気持ち悪く僕の…

フローベールの庭

庭に住み始めたカラス。私は彼だか彼女だか、その一羽の黒い鳥にフローベールと名付けてやった。フローベールは朝が近づくまだ日の昇らない暗がりで喧しくカアカアと鳴いた。私はフローベールの鳴き声に目を覚まし、縁側から庭を見る。声のする方はまだ暗く…

頃合い

頃合いなので白紙に戻す。