モンターグの貸出票

返却期限を過ぎました。

シティライツ

 全ての意欲が消滅した時、私はTSUTAYAに駆け込み、しばしの思案の後に一本映画を借りて帰る。
 家に着いた私はそのまま寝る。深夜まで寝る。日が変わらないうちに起きてしまったら二度寝する。それは三度寝になるやもしれない。何度だって寝る。深夜になるまでは。そして深夜に掻き鳴らされる迷惑なアラームの音を聴けば辛くとも覚醒する。水責めも厭わない。そうして目覚めた深夜。初めて効力を持つレンタルビデオ。 私はデッキにそっとそれをしのばせる。再生される映画。それを確認したらあとは見ない。見ても横目チラチラくらいにしておく。しっかり見ないようにしながら何をするかといえば部屋を片付けである。セミの脱皮時期かと言わんばかりの脱ぎ散らかした服を洗濯機にどーん!夜なので回しません!せっかく掃除なのだから掃除機ブォーンとかましたいところをぐっと堪えて兎に角散らかったものを整理していく。本棚から何故かいつも机の下や枕元に出かけるお茶目な本達を元に戻す。この時出版社毎に並べる刹那の几帳面さを解放する。
 そんな一人でバタバタする部屋で流れるのはチャップリンのシティライツ。浮浪者と盲目の花売り娘の切なくも甘い心の通いを描いた無声映画である。サイレントってのがミソである。あくまでバックグラウンドとしての映画であることが大事である。目的は片付けであって映画鑑賞ではない。
 私はチャップリンのコメディを空気に溶かしその中で部屋を整理する。たまに集中が切れて画面に目をやると浮浪者たるチャップリンが花を買ったりボクシング試合に出たりしている。いけないいけないと私は目的を思い出し本棚の整理に戻る。無惨に散らかっていた部屋が次第に姿を取り戻す。たたまれた衣服。行儀のよい文庫本。整うことは精神の洗濯である。盲目だった花売り娘は浮浪者から受けた恩によって視力を取り戻す。けれど彼女は恩人の顔を知らない。街の通りで見かけた哀れな浮浪者。立ち去ろうとする彼に彼女はバラを渡そうと手を握る。その時彼女は思い出す。かつて自分によくしてくれた紳士の手触りを。ささやかな幸福になんともいえない微笑を浮かべるチャップリンを最後に幕が引かれる。

……

 がっつり観てもた。これが意欲か。

街の灯 (2枚組) [DVD]

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