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モンターグの貸出票

返却期限を過ぎました。

ストリートオブファンデーション

 しとしとと弱々しく降る雨の中。既に日の落ちた街には傘が行き交いすれ違い。ここは化粧の浮いた街。景色を屈折させ本来なら映らないはずの装飾がそれだけを残して在り続ける。

 一度化粧を施せば、その身体は透けて見える。透けたらば見えないというのが正しさか。化粧が剥がれぬよう慎重にさされた傘がその上を浮遊していた。
 化粧は今や男女を問わず、それは個人の情報を保護する盾として用いられた。かつて原始の人が恥じらいもしなかった肌の露出を衣服によって守った歴史がある。それは初め寒さを凌ぐだけのものがいつかはステイタス。そしてとうとう恥じらいの文化は技術を深化させ、かのように化粧によって全てを覆い隠すに至る。最早隣人の素顔さえ知らぬ我々を果たしてコミュニティと呼べるのだろうか。そんな思いは私に化粧をさせなかった。この通りにあって唯一傘を「手に」持ち、二つの「足で」立っていた。化粧達が、それは実際に空気でしか感じることが出来ないのだが、私を異端者として白い眼で見ていた。
 足音がする。私の足は確かに地面を踏みしめ水溜りから雫が跳ねていた。透明の人達はそれを交わすように歩いた。するとどうだろう。私を避けて通るあまりに肩をぶつけた化粧同士がいざこざを始める。雨の中でドミノを弾いたかの如くその怒気は蔓延し、浮いた化粧が上下左右に行き来した。やがて強まる雨は欺瞞の仮面を洗い流し疲弊した化粧は人の形を取り戻す。その時、平静に傘をさして一人濡れなかったのが私だった。こうなってみてもやはり私はひとりぼっちだった。