モンターグの貸出票

返却期限を過ぎました。

えんぴつ、カード、宝物

「昔、バトルえんぴつってのが流行ったよね?ドラクエのやつとか。僕が初めて手に入れたバトえんは《メガザルロック》」
「ふーん」
「それはさ、自爆とかしてすぐ死んじゃうんだ。強いのか弱いのかよくわかんなくてさ」
「それで?」
「ただそのメガザルロックのえんぴつは宝物だった。流行とかうちの家は疎くて、欲しいものを強請るのはダメみたいな空気があってね。だから従兄弟がくれたそのメガザルロックは僕の宝物になった」
「なるほど」
「それからしばらくして小遣いをもらうようになったんだ。ひと月に五百円。僕は自分で使えるお金ってやつが嬉しくてね。それまで我慢していたことが少しだけ自由になった。いや、当時は空を飛んだ気分だったかな。ほどなくしてポケモンのカードゲームが流行り始める。以前の僕ならそれを指をくわえて見ていた。けれどその頃にはこつこつ貯めた小遣いがあった。流行りに乗れる。僕はそれが嬉しかった。《ギャラドス》のカードを当てた。絵の部分がキラキラ光っていてさ。宝石みたいだった。眺めているだけで満足があった。でもそのうち僕もみんなと勝負がしたいと感じた。ギャラドス一枚じゃあどうしようもない。だから僕はたくさんカードを買った。あいつに勝つためにはこれが必要だ、これも必要だ、あれも、それも。僕はまわりが見えなくなっていた。ある日僕のカードが一枚なくなっていることに気づいた。《リザードン》のカードさ。僕には大事なカードだった。勝つための、大事な。聞いてまわった結果、一人の友達に疑いがかかった。僕とその子は結構仲が良くて、だからショックだった。けれど僕はリザードンを取り返したくて彼を責め立てた。彼は哀しい顔をして、それ以来さ。リザードンは後で見つかった。兄が文庫本のしおり代わりにしていたのさ。僕は本当のことが言えなかった。友達と永遠に決別したままを選んだんだ。勝敗にこだわり始めたことに気づいた時、僕は全てがつまらなくなった。メガザルロックギャラドスリザードンも宝物ではなくなってしまっていた。僕に残ったのは一生の後悔と価値を失った紙の束だった」
「もうその子とは会ってないの?」
「ああ。どこに住んでいるかも知らない。会ったところで僕はどうすればいい?僕は、僕は」
「謝ればいいんじゃない?素直に謝れば。許してくれなくてもいいんじゃない?君が間違いに気付いてそうするなら」
「そうか……僕はそんな簡単なことにも気づけなかったんだ。こんな年になってまで、本当の莫迦だな」
「また、別の何か宝物が見つかるといいね」
「ああ……そうだね」