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モンターグの貸出票

返却期限を過ぎました。

大冒険

 昔、小学生だった。小学生だったのだ。ツラい。それはさておき小学生だった私は授業の一環として創作紙芝居を作成する機会を得た。私はこの頃からそういうことが大好物で、宿題に感謝したのは後にも先にもこの一回である。私は早速取り掛かった。下敷きにしたのは『エルマーのぼうけん』だ。これは主人公エルマー・エレベーターが年老いた野良猫に出会い「空を飛びたい」などと危ないことを言い始め、ほんなら竜を助けに行こうという超展開冒険譚である。幼き日の私はエレベーターって姓がかっちょいいなクソッタレってな具合にこの話が好きだった。だから私も竜を助くべくエルマーになろうと思ったのである。そのまんまでは面白くないので最初に出会う先導者を老猫ではなくメスの鰤とした。何故鰤なのか、どうしてメスなのか。今となっては私自身よくわからない。しかし鰤(♀)と出会った私は海底にあるとされる黄金郷の存在を知る。よくある話である。しかしそれを伝えてくるのが鰤とは斬新だ。そうやって悦に浸りながら楽しく描いていったことを今も思い出す。私は最終的に「海の山賊」という得体の知れない一味を倒し黄金郷の主となって海で楽しく暮らすのであった。作画枚数二十枚という当時の私にしてみれば乾涸びるまでに心血注いだ大作であった。
 発表当日、私は意気揚々と順番を待つ。はっきり言って他の級友の作品を「クソほどもおもしろくねえ」などと嘲るどうしようもない子供の私だった。さっさとわいに発表させや!と心で思い白々しく発表していく友人達に拍手を捧げた。
 いよいよ私の番。練りに練り上げた脚本である。描きに描き込んだ作画である。鉄壁の紙芝居、言うなれば鉄芝居である。今思えば私が読んだ様々な台詞は「ドヤ!ドヤ!」としか聞こえなかっただろう。反応も上々。ひそひそと話す級友から微かに聞こえた「すごいな」の一言で私の鼻先は校舎の壁をそこから端まで貫いた。
 さてこの課題、最終的に投票を行い、誰の紙芝居が一番面白かったかという競争形式をとっていた。ともあれ勝利は決まったものである。先達も後続も皆レベルは一様に稚拙。今すぐにでも我こそが勝者だと高らかに宣言してやりたいくらいだ。
 そして奴はやってきた。普段おとなしい彼は落ち着き払った表情で「始めます」と言うと、続けて「大の大冒険」と言った。一枚目にデカデカと描かれた大便。クソみたいな糞についての駄洒落である。しかし教室内はざわつき始めた。隣の彼女は大塚娘、ではなかったがめちゃめちゃに楽しそうな笑顔を見せていた。物語はウンコが便器に産み落とされる所から始まった。「ムニ」彼はそう言った。確かにそう言ったのである。排便音といえば専ら「ブリッ」が主流の時代に「ムニ」を駆使しやがる。私は正直この時点でかなりの焦りを感じていた。しかし所詮は下ネタ。出オチの息は長くあるまい。ウンコは下水管の中で様々な者に出会う。あまりよく覚えていないがその度に一休さんみたいなトンチをきかせて突破していく痛快さがあった。それはまさに便秘の糞詰まりから解放されるかの如き爽快感。馬鹿な!私の焦りは肥大化するばかりだった。下水道に落ちたウンコはその衝撃によって何故か大爆発し、その生命を閉じる。その時の爆発音が「ドンギュラヴォリーン!」だった。私は忘れない。ドンギュラヴォリーンなんて聞いたことない!お前、普段全然喋らないのになんだその語彙力は!?擬音の魔術師か!?
 結果、私は『大の大冒険』に大敗した。多くの票はドンギュラヴォリーンに傾いた。私は誓った。こんな安易な笑い認めない。私は誓った。私は私のやり方でいつか『大の大冒険』から玉座を奪い返すと。
 そして今、私はその『大の大冒険』にあやかりこのブログを書いている。
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