モンターグの貸出票

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インタヴュアーイズヴァンパイア

「私はヴァンパイアです」
 彼ははっきりと言った。近日公開予定の私が主演を務める映画『テンはネコ目イヌ亜目』の宣伝を兼ねたインタヴューの機会で。その記者は見た目は至って普通の中肉中背、何処にでもいるサラリーマンといった感じだった。名刺には「花山レスタト」と書かれていてファミ通のレヴュアーみたいだと感じた。花山は「早速ですが」と切り出したが私はそれどころではなく、逆に早速の前の早速を見過ごせず彼の言葉を制止してこちらから聞き返した。
「待って、おたくヴァンパイアなの?」
「ええ、で今度公開予定のテンネコなんですが」
「ちゃちゃちゃ、待て待て!ヴァンパイアって吸血鬼のあれでしょ?」
「そうです。でテンネコ」
「いやいやいやいや、テンネコはいいからさ。先ずこっちを解決したい。ヴァンパイアって実在するの?」
「ここにいるじゃないですか」
「聞いたけどさ。聞いたけどね、にわかに信じがたいですよ。だってヴァンパイアでっせ?おたくヴァンパイア感ないしヴァンパイア信じがたい」
「ヴァンパイア感?あのさっきから何をなさってるんですか?」
「腕を交差して十字架を描いてるのよ。でも全然効かないじゃん!ヴァンパイアなんでしょ?効かないじゃん!」
「失礼ですが信仰心はおありですか?」
「じゃあダメですね。十字きっても」
「え?何?キリスト教なら効くの?そういうこと?」
「効きませんよ。そもそも迷信なんで」
「え?じゃあなんで宗派聞いたの?え?馬鹿にした?」
「すみません、ではそろそろ本題に」
「入れないね!ちょっと!こっしゃん(ジャーマネ)!ペペロン持ってきて!ペペロン!はあ!ペペロンつったらペペロンチーノだろが!使えねえな!……ちょっと待って。ペペロン持って来させるから」
「ニンニクも意味ないっすよ。迷信なんで」
「ペペロン中止!こっしゃん!ペペロン止めて!帰らして!あのさ、じゃあどうやっておたくがヴァンパイアだと言えるわけ?それも私を馬鹿にしてんでしょ!大物俳優ぞ!私は」
「滅相もないですよ。小さい頃から見てましたから」
「所帯染みすぎてるんだよ!日常を描きすぎてる!ヴァンパイアってのはさ、もっとこう棺桶で日中を避けるんじゃないの?」
「この日本にその辺で脇差チョンマゲが歩いていますか?ステレオタイプなんです、先生が仰ってるのは」
「では現代のヴァンパイアとは?」
「僕です」
「わっかんねえなあ!一緒やが!ヒューマニズム全開やん!」
「でも血は吸いますよ」
「そうか!牙とか生えてるの!笑って!ねえ、笑って!キスして髪をなでて!」
「ニッ」
「ははーん、これはこれは!ははーん!」
「あー、もう十二時ですね。お昼の時間です」
「あー、じゃあペペロンいきますか!」
「や、先生で」
「は?」

 私は目の前に繰り広げられる圧倒的暴力になす術などあるはずがなかった。何故なら確かに彼はヴァンパイアで、ただの人間である私は捕食者を前にした獲物に過ぎない。私の俳優人生においてこれほど劇的なことがあったろうか?そう思えば何故か冥利につきる思いで私は不思議と満足していたのだった。