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モンターグの貸出票

返却期限を過ぎました。

光合三年生

創作
 十八歳の夜、就寝のために消灯するとどうも落ち着かない。暗所を嫌う理由などこれまでの半生を振り返ってみても見当たらない。この違和感は何か、そう思って手の辺りを見るとそれは蛍光色の仄かな明かりを灯していた。気のせいだと思って目を閉じるも気になって仕方ない。そのまま一睡も出来ず迎えた朝は何時と変わらぬ朝だった。
 朝礼を済ませ一限目の授業に備えて筆箱とノートを取り出す。教科書を忘れたことに気づき隣の席の本上さんに見せてもらえないかと頼んだ。本上さんは快諾してくれたが付け加えて「瀧田くん、なんか光ってない?」と妙なことを言った。自分で確認してみて、そんな気もしたが気のせいの範疇を超えない。
 やがて一日の授業を全て終え、部活に所属しない僕はそのままそそくさと家路を急ぐ。玄関扉を開け只今と言ってみても施錠された扉を自らで開けたことを思えば誰も居ないのは明白だ。癖だけが息をしている。リビングでテレビを点け漠然と眺める。瞼が頼りなく落ちてそのまま眠ってしまったみたいだ。それはいい。問題はその後だ。パートから帰った母は、日暮れて暗くなったリビングから光が漏れているのを見つけた。テレビだけが点きっぱなし。それだけではなかった。母が見た光はもう一つ。それは僕だった。僕は母の悲鳴に起こされた。そして自分が以前感じた違和よりもはっきりと自らが発光していることを認めざるを得なかった。
 翌日は色々と飲み込めないので学校を休むことにした。その間にもどんどんと光は強さを増していった。服を着るとその部分だけが遮光され、既に表情さえ見て取れない発光体の僕はまるで衣服だけがひとりでに浮いているという様だった。まだ十八。控えめに見ても全てが普通でなくなってしまった。この先のことなど何も考えられない。
「それに僕は……」
 どうせ詰まった人生ならばと自棄になり気づけば携帯電話を彼女の番号にかけていた。

 夜の公園で僕は街灯だった。
「うわー、ほんとだ。あ、こんばんは」
「本上さん、来てくれてありがとう」
「目立つね、瀧田くん。瀧田くんだよね?」
「そうさ、このザマだけどね。本上さん、率直に言うよ。好きだ」
「あー、うん……」
 無惨に散らせてくれ。思い残したまま死ぬのは嫌だ。完全に光になる前に、光になって消えてしまう前に僕としておわらせてほしい。そう思った。
「瀧田くん、少し聞かせて。わたしがもしダメって言ったらどうするの?」
「心置きなく消えれる」
「嘘だよね。それは理由づけだよね。わたしがダメって言ったらわたしの所為にして諦めれるって、残ったわたしはどう感じると思う?ずるいよね」
「それは……」
「だからって情に訴えてオッケーって言わせるの?それはもうなんだか姑息だし、そうなっても絶対上手くいかないよ」
「ごめんなさい」
「瀧田くんは手前しか見てない。先のことなんて全然見てない。その場で満足出来たらそれでいいってタイプだよ。わたしはちがう。本気で考える。瀧田くんが光ってても関係ない。そんなの全然問題じゃない。わたしが瀧田くんを好きって思えるならわたしは瀧田くんがどうであろうと幸せになりたいし、そうなるように考えていきたい」
「……」
「瀧田くん、わたしこんなんだからさ。逆に瀧田くんに覚悟を聞きたい。わたしと一緒に考えてくれますか?逃げないって約束できる?この先本当にただの光になってどこにいるかも夜までわかんなくなってもわたしと一緒に歩いてくれますか?」
「本上さん!僕は……僕は……」
「わかった。言わなくていいよ。じゃあまた明日」

 じゃあまた明日。僕はもうただの光。
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