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モンターグの貸出票

返却期限を過ぎました。

きょむクモッ!①

 深町塔子(ふかまちとうこ)は芋を掘っている時にひょっこり顔を出したモグラを踏んづけ首の骨を折って絶命させてしまう。塔子に故意はなかったとはいえ絶たれた命はかけがえのないそれである。塔子は哀しかった。自分が芋掘りに興じたあまり生涯を終えたモグラを想えば自分はなんと罪深き者であるかと。いやいや、それは仕方ないことですよ。僕は深町塔子にそう告げた。彼女が誰より好きだったから。

 僕の名前は蟻吉紳爾(ありよししんや)。時をときめくセブンティーン。都立氷沼高校二年生で一番眼鏡が似合うジュノンボーイ予備軍さ。……さて僕らヒヌ高生は課外学習と称してハーベストフェスティバルに参加していた。ここは都会の喧騒から解き放たれた広大な敷地が広がり、菜園や酪農といった催しが体験できる。それに則って深町さんや僕は芋を収穫していたというわけだ。僕は哀しみにくれる深町さんの足元に横たわるモグラを拾い上げ「埋めてあげよう」と声をかけた。丘の裏手の涼しげな場所を掘り起こし、そこにモグラをそっと置く。

「チャッピー、ごめんな」

「チャッピー?」

「ああ、このモグラの名前」

「どうしてチャッピーなの?」

「なんとなく」

「蟻吉くん、ふざけないで!蟻吉くん優しいと思ったけど、なんていうか……なんだか違うよ!」

 僕はサイコパス診断を深町さんから告げられ、去りゆく彼女の背をずっと見つめていた。

「バカだね〜♪アリョーシャは」

「なんですか青子さん?人の失恋を笑うな!」

 彼女は夢野青子(ゆめのあおこ)。三年。僕が所属するとある同好会の会長でミステリが好きな変態さ。

「失恋て。あんた終わりを自覚してんじゃん?かしこいかしこい」

「テメエの血は何色だ!」

「赤だけど。赤と認識している……がっ!?」

「すみません。青子さんにあたっても仕方ないですね。他の皆さんは一緒じゃないんですか?」

「藍美ちゃんと紅音は向こうで羊愛でてるよ。このクソ暑いのに大層なこって。翠は知らない。来てんのかも知らない。またしばらく拒否ってるみたいだし」

「そすか。まあどうでもいいんですけどね」

「さてアリョーシャ、殺モグラ事件が発生したわけだが君の推理を聞かせてくれるかね?」

「あんたほんと根っからのキ◯ガイだな。どう見たってただの事故ですよ!深町さんを犯罪者扱いしないでください!」

「見ず知らずのモグラにチャッピーとか名付けるお前に言われたかねえわ!まあそれは置いといてさ、新作読んでくれよ!出来次第では文フリ出店も考えてる」

「そうですか。じゃあまた部室置いといてください。気が向けば読んでおきます」

「また読まねえだろ!どいつもこいつもオランダも!やる気あんのか!」

「だってウチは別にミステリ小説作文サークルってわけじゃないし、その方向性でやってんの青子さんだけじゃないですか」

「解散だ!圧倒的解散!私は一人でもやるからな!テメエらはここで一生藁でも食ってろ!」

「帰りますよ。青子さん、あなたそう言って過去の過ちを繰り返すつもりですか?せっかく岩涙香さんも小栗さんも仕方なく付き合ってくれてるのに」

「し、仕方なくぅ?願い下げだ!」

 僕らの同好会はかつて青子さんと別の友人達の手で発足された。それはミステリ好きが有志で作り出した、まさに青子さんのやりたいことだったのだが彼女はそこでも本気を出し過ぎてしまい気付けば他の会員達は次々に退会し、そして誰もいなくなった

「あらあら?お二人ともこんなところにいらして何をなさって?」

「藍美ちゃん!聞いてくれ!アリョーシャのやつがみんな仕方なしに私に付き合ってるとか言うんだ!」

「ウチはそうやで」

「紅音!テメエはこの手で血祭りだ!」

 この二人も同好会の現メンバー。上品な口調の彼女は岩涙香藍美(いわるいかあいみ)。三年。帰国子女のお嬢で約束された将来がありながら青子さんの友達をやってるこの人も常識では計り知れない。関西弁の明朗快活な彼女は小栗紅音(おぐりあかね)。三年。青子さんとは小学生からの付き合いで、かつてはソフトボールの選手として副部長にまでなったエースであったが肩を痛めて引退。以後暇を持て余していたところ青子さんの勧誘を受け入会。虫、特に白蟻が好きという闇を持つ。

「だいたいあんたは昔っから真っ直ぐしか見れんとこがあるからな。せやさかい失敗ばっかりするんよ。もっとまわりを見な」

「なに!?私のお母さんみたいなこといちいち言わないでくれる?」

「オカンにも言われとるんやんけ」

「うるさい!うるさいうるさい!」

「まあまあ二人とも喧嘩しないで」

「「テメエはすっこんでろ!」」

「なんだと!?僕は普通にハーベストをフェスティバルしたかっただけなのにこんなとこまで来ていつもみたくあんたらの仲裁をさせられてウンザリだ!解散?しちまえしちまえ!!」

「おうおう上等だよアリョーシャ!あんたにしちゃいい判断だよ!解散だ!」

「勝手にウチ誘っといておもんないんで辞めますてどんだけ子供やねん!昆虫のほうがおとなしてマシや!解散!」

「お紅茶飲みたい」

 あと一人メンバーがいるんだが、こんな僕らは「中井英夫先生最高かよ!虚無でしかない私たちに耽美もっとください耽美もっとください!の会」という青子さん命名の狂ったネーミングを藍美ちゃんさんがまろやかにした「きょむクモッ」っていう同好会をやってます。

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