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モンターグの貸出票

返却期限を過ぎました。

六月一八日

 一通りの予定を終えて帰る道すがら。向かいからやって来たご婦人に呼び止められる。道でも聞かれるのかと思いきや、待ち人来ずで浮いた地下鉄一日乗車券、それを私にくれるという。申し訳ないんで、もう帰るだけなんでと言いかけては両手を持ってそれを手渡すご婦人「助かるわぁ。ほんまにありがとう」

 私はこの一日乗車券というものを初めて使う。何度改札を抜けても手元の切符。何やら誇らしい。どうもダメだ。断り切れなかった。それもご婦人の見ていないところで捨ててしまっても咎める誰かもいないのに私はこうして地下を走る鉄道の中。知らない街の駅で降り、適当に目についた喫茶店でバナナジュースを飲んだ。粒の荒い好きな味。

「ねえ、バナージュ?僕らは初めましてかな?とても懐かしい味がする」

 さらに調子付いてコンビニで下着を買い銭湯に入った。昔ながらの番台でおばちゃんに四百円シャンプー代込み。浸かる湯船のありがたさ。気儘な旅だった。

 私はまたこの乗車券で家に帰る。感謝せねばならないのは私の方だろう。ご婦人と待ち人に再会の時があれば言ってほしい。私が美味しいバナナジュースの店に案内します。

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