モンターグの貸出票

返却期限を過ぎました。

loss an angel

「わたしここでドロンします、シュシュシュ」

 そう言って長澤まさみは僕らの前から姿を消した。あれから幾年もの時が過ぎて、その間に様々な出来事が起きた。山は噴火を繰り返し、雷鳴は延々轟いて、暴風勢い鳴り止まず、大地はひび割れ邪神は復活を遂げた。それでも僕の気がかりは長澤まさみロスに尽きた。彼女はどうしてドロンしてしまったのか。僕は飲み会の最中、この時が永遠に続くことを願った。だってあの長澤まさみだぜ。僕はただその場にいられるだけで幸せだった。しかし一抹の我欲を覗かせてワンチャンアオォーンンを期待したのがよくなかったのか長澤まさみはドロンしてしまった。あの時、僕がもっと必死に引き止めていたなら、世界はこんなにも荒廃しなかったのではないか。そんな後悔が尽きなかった。人類は邪神一派の奴隷として来る日も来る日も奴らの棲まう城の外壁にサンリオのキャラクターの似顔絵を描かさせれた。各々担当が決まっていて僕は「ハンギョドン」ブロックの班長になっていた。先日「バッドばつ丸」ブロックの一人がばつ丸の絵を描かなくてはならないのに途中で精神かゲシュタルトが崩壊を起こし伊集院パンダバを描き始めてしまった。邪神はその辺律儀でばつ丸の発注に対して伊集院パンダバを描くとは何事かとし、ばつ丸ブロックのそいつは紫の雷に打たれて髪の毛ひとつ残されなかった。僕たちハンギョドンブロックも作業を途中で中断し、みんなで伊集院パンダバの絵を拭き落とす作業を手伝った。

「班長!俺もう嫌です!なんでこんなこと続けなきゃならないんだ!実家に帰って井村屋のあずきバーが食いてえ!助けてください!誰か!助けてくださいぃ!」

 同班の後輩が荒廃した大地の中心で愛を叫んだ。よく分かる。それは人類の総意だ。しかし僕には彼を救ってやれない。

「実家なんて、もうねえだろ」

「……助けてください!誰か助けてくださいぃ!」

 黙れ小僧!それ以上僕に森山未來×長澤まさみのインスピレーションを与えるんじゃねえ!僕は長澤まさみロスを意識してしまった。そうだ。このくだらない終末世界に長澤まさみはいない。ドロンしたから。なんでドロンしちまったんだよ!どうして!どうして……

 僕は伊集院パンダバを消していた雑巾で涙を拭った。頬に塗料が付着する。でも良かったんだ。こんなクソみたいな世界で長澤まさみはその不幸を知らない。僕は長澤まさみがどこかで幸せならそれで構わない。いくらだってハンギョドンを描いてやる。いくらだって。いくらだって。

 

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