モンターグの貸出票

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荷を継ぎ、州に比くす、吼ゆる浪の音

 山峡の村に立つ道場の師範は、昨晩からの嵐に荒れる外を格子窓から見遣ってままならんとし、それをピシャリとしめた後の睫毛は濡れて、稽古場の行燈に当てられ輝石のように光っていた。幽暗の中を走って道場まで訪れた三人の弟子は、一様に足が泥に塗れて、木板の床に跡をつけた。

「この天気です。あなた達もわざわざ来ずとも家に居れば良かったのに」

「いえ、私は先生に稽古をつけてもらわねば一日が終えれませんゆえ、私はたといこの身大事にいたろうと這うてでもここに通います」

「それは私とて同じ。私ここでの学びは武芸のみならず文字書き、和算に人の道。全てを教わっておると言っても過言なきゆえ、私の全てはここにあるのです」

「みんな、ポテチ持ってきたけど食う? さっき来る途中でびちょびちょになったけど中身はたぶん大丈夫」

「……」

「……」

「と、ところで先生! 本日はどのような稽古をつけていただけますでしょうか? よければそろそろ先生とも竹刀を交えてみとうございます」

「私と? 私は弱いですよ。偉そうに皆さんに教えなどと言っても、私はもとよりこの村の者ではありません。旅の最中に立ち寄っただけで本当はこのように長居するつもりもありませんでしたが、あなた方のお父上やお母上からお頼み申され、こんな立派な道場まで任されては引くに引けぬと思うただけで……」

「先生! 謙遜は止されませ。私は見たのです。先生が初めてこの村に訪れた日、脇に構えたあの立派な刀でこの村に忍び寄っていた悪鬼を断ち斬ったところを! 私は先生が人知れずこの村を救った恩人であると知っております。それゆえ、私も先生のように強くありたいと父母に頼んで先生を引き止めてもらいました。迷惑だとは思います。ですが私は……」

「シンノスケ、迷惑などと思ったことはありませんよ。私はあなた達に出会えて良かったと思います。皆本当に良い子。だから、あなた達に稽古などつけてよいものかと躊躇いがあるのです」

「見て! 盲腸コアラ! これレアなんだよね! あー、どうしよっかなあ? でも食べちゃう!お菓子はお菓子だからね!ぱっくん♪」

「……」

「……」

「先生! それはどういう意味です?」

「盲腸コアラとはおそらく盲腸、すなわち虫垂炎を患ったコアラの姿形を表した……」

「ではなく! コアラのマーチではなく! 私達に稽古をつけるのをなぜ躊躇されるのです?」

「あ、ああ……あなた方の武に対する構えがもしこの村を悪鬼から守る為ならば、そのような危ない目にあわせるのを私が助長しているのではないかという懸念があります」

「……先生、私は先生から大切なものを守りなさいと教わりました」

「私もかけがえのないもののために生きなさいと教わりました! 私たちは生きるための術を先生から教わっているのです! だからそんなことを言うのは止してください!」

「あなた達……」

「じゃじゃーん! いっつもはスーパーで買えるお菓子ばかりですが今日は特別にお取り寄せしたお菓子をご用意いったしましたー! なにかなナニカナア??」

「お前さっきから何菓子ばっか食ってるんだ!」

「そうだ! 私たちが先生といい感じの雰囲気で雰囲気づけているというのに」

ケーニヒスクローネ

「ああん?!」

「お母さんが家族のために作るおやつのように、素朴でやさしい味、それがドイツ菓子の魅力です。フランス菓子のような華やかさはありませんが、季節のフルーツの味をそのまま生かしたシンプルで素朴なケーキ。そんなドイツで育まれてきたお菓子づくりの思いを店名に込めました。ケーニヒスクローネとは、ドイツ語で「勝利の王冠」。メインキャラクターのクマさん(名前はポチ)も頭に王冠を乗せていますが、けっして威張ったりはしません。美味しいお菓子をたくさんの人に届けたい思いで一杯です。ドイツへの愛着のこもったお菓子を、どうぞお楽しみください」

「お前……何を……」

「継荷比州吼浪音……」

「先生?!」

「荷を継ぎ、州に比くす、吼ゆる浪の音……洋菓子という商品を作りながら、日本という国と一緒になって、隆盛のごとく伸びて行こう!……という意味合いが込められたケーニヒスクローネか!」

「先生!!?」

「そうだよ! ケーニヒスクローネだよ!」

「せ、先生! 稽古を!稽古を!」

「け、け、けケーニヒスクローネ!」

「そうだよ! ケーニヒスクローネだよ!」

「先生!」

ケーニヒスクローネだよ!」

ケーニヒスクローネ!」

ケーニヒスクローネだよ!」