モンターグの貸出票

返却期限を過ぎました。

 築不明年のボロアパート。

 破壊されたエアコン。

 ハネも電源もない扇風機。

 冷蔵できない庫。

 その手に握られしはスイカバー。

 私の唯一の避暑手段。

 この何もかも腐敗させそうな極暑にあってスイカバーだけが私を正気へと導いた。霜の降りた薄赤い部分へと口もとは吸い寄せられる。

 

 持っていかれた。唯一点の冷に私の唇の皮は盛大に持っていかれた。ひりつく皮膚は常温へとかえるにつれて痛みに変わっていく。ジェネラルルージュの凱旋。将の帰還ぞ! 道をあけよ! 真紅に染まる口もとから焼けたアスファルトに滴る血。ぽたぽたぽた……ぼたっ。一つの希望が揺れる音。スイカバーも落ちた。嗚呼! ああん! 待って待ってまだ待って! アスファルトは瞬く間にスイカを溶かしバーだけが残った。狼狽えている隙に神は死んだ。窪んだまなこに痩けた頬。私は失意のままラクーンシティを徘徊する。

 

 IKEAを発見した。私はIKEAに向かって残された力を振り絞った。けれど全く辿り着けない。冷房、冷房冷房冷房冷房冷房冷房冷房冷房冷房冷房冷房冷房冷房レイヴォーーーーーーォン!!

 蜃気楼。あれは幻だ。IKEAそれは君が見た光、僕が見た希望。私は膝から崩れ落ちた。アスファルトの熱は私の皮膚を焼いた。夢を見た。私はプールサイドだ。学校の。梅雨時にカエルやコイやヤゴを追い出して綺麗に洗ったプール漕の横で「熱ッ!! 熱ッ!!」などとはしゃいでいる。早く入りたーい、溶解ッ人間! 私は教師の制止を振り払いプールの中へ飛び込んだ。意識が回復した時、薬品の匂いがした。

「ワタシはダレ? ココアシガレット?」

熱中症ですね。点滴終わるまで安静にしててください」

 病院か。涼しいな。ふと涙が溢れた。

「引っ越そ」

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