アントーニオの肉一ポンド

返却期限を過ぎました。

どろどろしたものはデザインしにくい

 逸又かなえのスライムはカチカチに硬くなっていた。八つの折にロフトで買ってもらった黄色いスライムだった。かなえはその匂いがそこはかとなく好きではなかったが冷んやりとした感触はそれを凌駕した。ところが最近になっていろいろと気がかりなことが増え生活にも支障をきたし始めたかなえはスライムにかまってやれなかった。ただかまってやれないだけならまだしも付属の容器のキャップを閉め忘れていた。これがいけなかった。外気にさらされ続けたスライムは乾燥しカッチカチの固形物になってしまった。こうなると臭いだけの軽石であるスライムはなんだかうだつの上がらない日陰の人という感じがした。ただそこまで追いやってしまったのは自らの過失だったためかなえは責任を感じていた。かなえは容器を鉄切り鋏で切り裂き中からカチカチの臭い石を取り出した。自然と涙がこぼれ落ちた。八歳から共にあり、今や親よりも長い年月を一緒に過ごしてきた感慨は一入だった。かなえはなんとかしてスライムを蘇生してやりたいと思った。小学生の頃にハマった黒魔術の指南書を取り出してきて死者再生の項目を参照するとペガサスの生き血が必要なことが分かった。小学生ごときに死者など蘇らさせるものかという出版社の気概を感じる。そこでかなえは叔母に勧められて使っていた高級乳液を持ってきた。乾燥には保湿成分だという発想だった。かつてストレスから肌質が悪化し石仮面のようにバリバリになってしまったかなえの顔を再生した乳液である。これならきっとという思いでかなえは固くなったスライムに乳液を塗りたくった。しばらくするとスライムはかなえの予想通りとろみを帯び始めた。叔母へ感謝を捧げながらかなえはスライムを手で解していく。やがてスライムは元通りを通り越してクロスロードに差し掛かり悪魔と契約したためかシャバシャバの液体になった。ガラス机の端から流れ出し垂れた一部がカーペットに染み込んだ。アカンと思い即座に味噌汁椀へスライムを流し込んだ。かなえは椀に両手を添え、黒眼だけになってスライム(液)を見つめた。かなえはゼラチンがあるのを思い出した。以前付き合っていた男性のためにプリンを作ってあげた時の残りだ。賞味期限が遥か昔に切れているゼラチン粉が内包するメタファーを無視しつつ、かなえはシャバイムに粉を足して指で掻き回した。だんだんと固形化の姿勢を見せ始めたスライムはゼリーになった。プルンプルンで指で触れると弾力性を発揮した。握り潰すと爆ぜた。小さく分裂したスライム達を掬ってかなえは近くの公園に向かった。深夜の公園には猫一匹おらずホームレスがひとりで寝ていた。かなえはナイロン袋に詰めたスライムゼリーを傍らに置くと徐に土を掘って穿つを作った。そこにスライムを入れて埋めた。

「姉ちゃん、何やっとんの?」

「あっちいけ」

 かなえは帰宅すると部屋が随分広くなったように感じた。一通り泣くと消灯して眠った。明日は休み。名古屋にひつまぶしを食べにいくのだ。