アントーニオの肉一ポンド

返却期限を過ぎました。

曖昧

 彼らは金属製の天板をした机の上に穀物と思われる何かしらを何らかの器具を用いて粉末状にしたと考える白っぽい粉に水そのもの或いはそれに似た性質の正式には断定できない液体を練りこんで柔らかな弾力性のある団子状に成形したものをひたすらに叩きつけていた。この行いがどういった目的で行われているかを正確に知る者はこの中に居らず、どこかの上層部からそのようにするように指示があったという曖昧な誰かしらの記憶に基づいて全員が何ら疑問を持たずに実行していた。

 断定不明の液体を練りこむことで固形物となった元粉末の元々穀物と思われるそれは、彼らの何割かには香ばしい良い香りという知覚を与えたりしたりしたが、また何割かはその単調な作業の所為か何も感じさせない、或いは不快感のようなものさえ与えられる節があった。

 この奇妙な行為が連続的に行われるどこかのこの施設の中のこの一室に設けられた照明はたった数個の電球のような形をした宙ぶらりんにされた電球らしきそれだけだった。電球らしきそれは細い針金らしきそれに繋げて天井から吊るされており小刻みに揺れるためか薄暗いこの何処かしらの部屋の一部分を照らしたり影にしたりするので元々穀物の現団子状の固形物を金属製の天板に叩きつけるにあたり手元が見え辛いという場面があったりした。

 作業員と思しき彼らの機械的な作業の中では互いに会話がないために情報はただ誰かしらがこれをしろと言っていたかもしれないというその一点で自らが何をしているのかもよく分かっていなかった。このような場合、彼らを作業者として拘束する力がどのように働いていたかを考えるときやはり何か寸分でも彼らの利益となるものが誰にしてもその雇用主から供給される絶対の約束がなければ一般的に考えて彼らの作業がこうして持続しているのは不可思議に思われた。これがまた一種の宗教的行いであるとしても彼らはその作業自体に意味を見出しているのが当然と思われるので、誰だかわからない何者からのあったかも分からない支持という曖昧な記憶だけを行動理念と呼ぶにはあまりにも説得力に欠けると思えたし、普通に考えて成立しない状況であるといって過言なしと判断して差し支えないように感じられるのだった。

 それでも作業員だろう彼らは内容不明物質を叩きつける行いを止めることなく実行し続け締め切られて数個の針金らしきひも状に繋げて吊るされた電球らしきそれのみで照らされる暗がりの某一室にてある種耐久のように見受けられる状態を維持していたのである。

 バチーン! と音がしたかと思うと部屋の扉が蝶番で固定された部分が錆びていたのか開くというよりは破られて開放された。逆光でシルエットでしか見えなかった人らしき影は作業員風の彼らに一言告げた。

「あんた達はイかれてるわ! こんなことに何の意味があるの?」

 すると今まで叩きつけられていた謎物体が奇声を発したかと思うと一斉に影に向かって飛びかかった。影はよく見ると帯刀していて飛びかかる白味を帯びた謎を次々に斬り払った。最後の謎白玉は先駆者の有様に萎縮し逃亡を謀ろうと向きを変えようとしたところで真っ二つにされた。部屋は何故か血液じみた液体で赤く染まり、影自体もその赤を纏っていた。その一連の光景をただ見ていた作業員? 達の一人が言った。

「あんたは……ぼくたちは……」

 影はもう影ではなく人そのものの姿をしていた。見分けのつかない白装束の者達の中でただ一人浴びた赤味が破れた扉の向こうから射す光に輝いていた。