アントーニオの肉一ポンド

返却期限を過ぎました。

Every man thirsted

「好きだ!」「愛してる!」その手のセリフを100回言い終えた時、口の中は乾ききっていた。皿いっぱいの山盛り粉吹き芋を一口で頬張った時、人は渇きによって殺されると聞く。呼吸が塞がれたわけではなかったが、かつて試みたミルハウザー5時間ぶっ通し音読トライアル時に似たその口の乾きはそれ以上言葉を次ぐことを許さなかった。そんな私に彼女は言った。

「足りない。全然」

 私は端的に言ってこの女は頭がおかしいんだと思った。彼女は私にその好意が真実であることを証明せよというのだ。私は考えた後にありったけの愛ある言葉を述べ連ねた。世界に女性は数あれどこれほどにプロポーズを、それも一度に行ったのは彼女が初めてだった。しかしそれがどうしたと言わんばかりに彼女はそんな程度では足りないという。私は、ならば1,000回言えば良いのか? と問い返そうとしたが口の中が乾いて仕方なく鼻をふんふん鳴らすことしか出来なかった。彼女はそんな私を見ながら「お疲れ様でした」と身を返して立ち去ろうとする。

「ま、待ってくケヘェ!」

 なんとか絞り出した声の後半は掠れた。しかし意味にはなっていたので彼女は立ち止まる。

「まだ何か?」

「ホフッ……カハァ!」

「じゃあ」

「私は! ハァハァ、君が! 君が好きだッ! 世界中の、誰、より、私は……クッ……ハァ! 君が好きだ!」

「……」

 彼女の目元は疑念に満ちていた。私の言葉を侮蔑する眼差しにも見えた。難攻不落の要塞とはこのことだ。しかし私も諦めが悪い。声が声にならなくなって空気を振るわせることも出来なくなっても口の筋肉が動く限り私は愛を謳った。膝は折れ、両腕は動かせず、胴が崩れ落ちてそのまま地面に叩きつけられると周囲に砂埃が立ち、あぶくを噴いて視界が濁った。死地見つけたり。ほぼ息のない私の顔を彼女は屈んで覗き込んだ。右手人差し指で前髪を上げて耳にかけると「おやすみなさい」と言って微笑んだ。

 遠くでサイレンの音がする。彼女が救急車を呼んでくれたのか。まだ生きろと、そう言うのか。生憎全身力の入らない私はされるがまま事の運ぶままその身を任せるしかない。また会えるだろうか。もし会えるなら次は水筒を提げていこう。