読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

モンターグの貸出票

返却期限を過ぎました。

文豪スットコドッコイ

羽ペンに墨を浸し、その先を紙の上に置いた。墨は紙に滲んで黒点。羽ペンは渇いた。男は机から窓へと目を逸らし外の景色を見遣った。嘗てはそこに沢山の物語を見つけた。それをそのまま見た通りに文字に書き起こした。男は窓枠を縁として描かれた絵画を物語…

白湯川くん

「じゃあ、白川。この問題解いてみろ」「サユカワです」「湯川くんってどこ中出身?」「サユカワです。二中です」 白湯川くんはいつもこの調子。私がこの高校に入学した時、前の席に座ってた白湯川くん。いつも口数が少なくて何考えてるかわからなくて、でも…

アシカショー師匠

あたしと従兄弟でアシカショーを見に来た。従兄弟のケン兄は生まれたばかりの赤ちゃんを抱っこしていた。奥さんはうちで婆ちゃんに料理を教わってる。奥さんは美人だしケン兄も人並みに整ったツラなので娘のミユキも赤ん坊ながらめちゃくちゃ可愛い。婆ちゃ…

ミュータント・ビートルズ

僕らはもうダメだった。ジョンはずっと眼鏡を拭き、リチャードはチンパンジーをあやす。ジョージは髭についた牛乳をペロペロしながら明後日の方向を見つめていた。 僕らはかつてアイドルだった。どこに出向いても黄色い歓声が飛び交って、それまで田舎の農…

きょむクモッ?

僕の名前は蟻吉紳爾(ありよし しんや)。都立氷沼高校二年生。時をときめく華に無敵のセブンティーン。最近目が悪くなってお母さんと眼鏡を買いに行ったよ。 ……さて、本題はここからです。今、あなたがお読みになっているこの『きょむクモッ!』と名打たれた…

好きな映画の話 その3

ーどうして雪は降るの?ーーそのためにはまずハサミの話をしなくちゃねー 老婆と孫の会話である。どうして雪にハサミが関わるのか。それは『シザーハンズ』を見なくちゃね。 私が初めてこの映画を観たのはまだ十代。思春期といって、後々の歳をくってからで…

愛と欲望のヒヒ

エテ公である。山のエテ公であったはずである。それがいつしかヒト社会に溶け込みネクタイを締め出社している。パーソナルコンピューターのモニターを前にデスクに腰掛けキーボードを弾く。アポイントメントの電話を入れ資料片手に外回り。帰社する頃には中…

五月四日

同窓会のため帰郷。段々と田舎めいてくる電車の窓越しに見る景色。イヤホン越しに流したBob Dylanの『Don't Think Twice It's All Right』が見事に溶ける。殆ど人のいないプラットホームが優しい。 まだ会まで時間があったので車を走らせ近くの大型スーパー…

スピーチ

「えー、ユウマくん、ヒロコさん、この度はご結婚、まことにおめでとうございます。僭越ながら友人代表として選んでいただき恐縮の極みでございます。ですがこの門出をお祝いするにあたり精一杯の気持ちをしたためてまいりましたので、どうかおひとつご静聴…

好きな映画の話 その2

デヴィッド・リンチという監督は有名です。しかし私は彼の代表作とされる『イレイザー・ヘッド』であったり『ツイン・ピークス』を知りません。後者がテレビドラマであることさえも知りませんでした。 私が知る唯一の彼の作品、それが『ストレイト・ストー…

好きな映画の話

聞いてみた。「好きな映画?ですか?……そうですね。『霧の中の風景』とか?アンゲロプロス。父親を探す姉弟の話で。イニシエーション?特にお姉ちゃんのそれが描かれているんですけど……あんまりむつかしいことはわかんないですね。それより弟役の子供が可愛…

ストリートオブファンデーション

しとしとと弱々しく降る雨の中。既に日の落ちた街には傘が行き交いすれ違い。ここは化粧の浮いた街。景色を屈折させ本来なら映らないはずの装飾がそれだけを残して在り続ける。 一度化粧を施せば、その身体は透けて見える。透けたらば見えないというのが正し…

難民

日常系人気アニメ『とな回!』が最終回を迎え、来週から『とな回!』ロスの世界線に突入する。一話から十二話まで録画したハードディスクに油性マジックで「進化論」と記した俺は天を仰ぎ、頬を伝う血汐を感じていた。ありがとう!とな回!と一度は感謝して…

ふあぶるのおもひで

蟻の隊列行儀よく、巣穴へ向かい歩を進める。中ほどの何匹かが大きな飛蝗を背にしょって同じ歩幅で歩いた。不平を言う者はいない。どれも静かに巣に向かう。悪戯な気持ちで指を置くと律儀にそれを越えていく。それを生命の熱心とするか、機械の哀惜とするか…

四月二四日

同級生(と後輩)に会う。皆、今や散り散りに暮らし多忙の日々を送るゆえ中々会えない間柄であるが、会えば何も変わっていない(身てくれは別)。軽音楽という部分での繋がりから縁を持ち、それが今でも続いている。久々にスタジオに入り楽器を繋いだ。私は機材…

魚を食べよう

僕らは郊外で個人経営している雰囲気のあるカフェテラスで机を囲んだ。最初に口を開いたのはキヨシだった。キヨシは昔から血気盛んというか今もヤンチャで首筋から肩にかけてタトゥーを入れている。銭湯に行けないと嘆いていたが僕はそんなキヨシのことを莫…

ビビアンドスーザン

三人の少女が自転車の速度を上げながら向かい側からやってくる。喫茶店の前で交錯し、自転車を停めた彼女達は「今年もオレンヂジュースの日」みたいなことを言って店に吸い込まれた。刹那に横目でうかがった彼女達の表情は若さゆえの快活さと何処とない寂し…

ビビアンドスーザン(予告版)

神田尾々(かんだ びび)イズグレイトフルデッド。スーパーゴーストカミカゼアタック、街の地縛霊。 斉藤スーザン蝶胡(さいとうすーざんちょうこ)イズシャーマンモダンタイムスイズフェイク。エロイムエッサイムエコエコアザラクテクマクマヤコン揖保乃糸。 …

教室

長生きに執着はないけれど老いには幾分か興味がある。それは日々の疎ましさなどといったいつの齢であろうとつきまとう観念とは違ったところで、その歳にしてしか感じることのできないものへの興味である。 私はピアノを習いたい子供だった。けれど親に言わ…

日常と期待

漱石は、高浜虚子『鶏頭』にて寄せた序文の中で小説内の余裕について語る。余裕のある小説というのは漱石曰く以下のようなものである。 “余裕のある小説と云うのは、名の示す如く逼らない小説である。「非常」と云う字を避けた小説である。不断着の小説であ…

シティライツ

全ての意欲が消滅した時、私はTSUTAYAに駆け込み、しばしの思案の後に一本映画を借りて帰る。 家に着いた私はそのまま寝る。深夜まで寝る。日が変わらないうちに起きてしまったら二度寝する。それは三度寝になるやもしれない。何度だって寝る。深夜になるま…

私からのお願い

シチューに集中して。シチューだけに集中して。シチュー以外には集中しないで。でもシチューに集中しすぎてはダメ。シチューに集中しすぎないように意識して意識を集中してシチューから意識を逸らしすぎないように集中して。集中してシチューに意識を集中さ…

アレルギー持ちの愛した猫

ふとましい猫だった。犬かと思った。幼い私は猫アレルギー。死と隣り合わせだった。母方の祖母宅で飼われていた雌猫。腹を引き摺って歩くは女王の風格。 祖母の家に訪れると鼻水と喉の痒みが止まらないので正直行きたくなかった。それでも猫が嫌いなわけで…

曲がり角の因果律

ハニワを飼っていた。というか今も実家にある。祖母の遺品だ。母の実家を整理している時に「これをくれ」と言った私だ。当時十代にもならない私は『ハニ太郎です。』という漫画にハマっていた。下品な漫画である。ガキの喜びそうなウンコとかがいっぱい出て…

他力本願

年明けに「読書頑張りたいですね。ユリシーズとか」などと言っていた私は死にました。あれから3ヶ月と少し、未だ一冊とて最後の頁まで捲れずに読み散らかした数冊。バイキングレストランで調子に乗った私です。 悠久の中で忘れ去られた山の頂二歩手前に小さ…

四月三日

四月三日。エドワード・ゴーリーの作品展に行った。自発的になら行かなかったろうと思う。誘っていただいて結果よかったということが多々ある。自分の視野の狭さに呆れながら塗り潰せる余白の多さは楽しみとしてたくさん残っているのだと思った。 その日も…

蟻人

蟻人と暮らして三年。つまり親に反対されて喧嘩して家飛び出して三年。蟻人は私の旦那で、今の世の中じゃ私、つまり人間と、旦那、つまり蟻人間の婚姻は認めてもらえないので他人でもある。ただ蟻人は誰よりも私の旦那らしく、蟻人以外の男に興味の持てない…

深淵

小学生の頃、太った友達がいた。彼は今では痩せていてフィアンセもいるという。そんなことはどうでもよくて、話をその小学生の頃に戻す。別に羨ましくなんかない。結婚というのはそれぞれタイミングだ。とにかく時間を巻き戻す。だから強がってるわけじゃな…

花よ恋々猪鹿蝶

可哀想な子。俺はそう思った。帰宅部のあいつが膝にサポーターつけてる、しかも常時つけてるのは如何ともしがたい違和感があったが、どうやら開き直ったあいつの膝は芋だった。猪上タミ子。俺はあいつが幼稚園の頃からの付き合いで、といっても友達未満の知…

ヒザポテト

「球体関節ってご存知です?」「人形の関節が球体で形成してあるあれでしょ?」「そう、それです。まあそんな感じだと思ってください」「うん、うん…….いや分かるんだけどさわかんないよね。全く不可解」「はは……ですよね。理屈じゃない。理屈じゃないですね…

詠みと読み -榛 瑞穂の短歌に寄せて-

完璧がこの世にあると知った日に僕はひとりで砂を食べてた|榛 瑞穂 https://t.co/TvlM4qWbI9 #jtanka— 榛 瑞穂 (@maimaitsuburo_2) 2016年3月6日 榛 瑞穂さんが詠まれたこの短歌。私はこの歌を初めて目にした時、筆舌に尽くし難い良さを感じた。筆舌に尽く…

ラフスケッチ

晴れやかに雲ひとつなく清々しいまさに完璧と呼ぶに相応しい青一面の空が汚れのない海に同じ色を映し出して間に挟まれたわたしの視界に映る浜辺はこの春先であってさえ夏を感じさせる爽やかさのカラッとした空気に溶けない全裸の同級生がこちらにやってくる…

夕暮れひよこ饅頭

妹とは歳が三つ、三つだけはなれていた。たった三年の誕生日のちがいがわたしに妹を分からなくさせた。妹は奔放だ。そうだと思う。口数は少ない。目もいつだって座っていて眠そうな顔をしているのに家中を走り回ったりする。お母さんはそんな妹をとっつかま…

帰り途

ペロヲ先生は名をシアルルといって頭がカタツムリの体つきは男性だったけれど声色は女の人だった。ペロヲ先生は頭がカタツムリの顔はその殻の部分なのであっていつも視線というものを感じなかった。頭のカタツムリは時折紙みたくペラペラで子供の落書きのよ…