アントーニオの肉一ポンド

返却期限を過ぎました。

『アーマード・コアⅥ』火をつけました燃え残った全てに

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 去る2023年8月25日、満を持して発売された『アーマード・コアⅥ』ですが昨日全ミッションを終え全てのストーリーを拝みました。

 私は今シリーズの熱狂的なファンというわけでなく他はACAAくらいしかやったことがないにも拘らず本作の発売を楽しみにしてました。それは当時、友人から面白いゲームだと紹介されて触ったアーマード・コアっちゅう聞いたことはあるがよく知らないロボゲーにあまりにもハマってしまった思い出があるからでした。その後テレビゲームそのものから遠ざかっていたのがここ数年で再燃し、本作の発売メーカーでもあるフロムソフトウェアさんには『ダークソウル』をはじめ大変お世話になりました。そんなフロムさんが凡そ10年の歳月を経て遂にACの新作を出すというニュースが飛び込んできた時には流石にテンションが上がり発表トレーラーを何度も見返してしまいました。海外ファンの歓喜リアクション動画も何遍も見返して「そうだよな」と人知れず共感していました。それが先月8月遂に発売したんです。

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 準備は万端でした。気づいたらPS5がウチにありました。しかしまだ発売日ではありません。なのでせっかくだからプレステでしか現状プレイ出来ない『Blood bone』を買って待ちました。これがめちゃくちゃ面白くてACのことなんかほぼ忘れて漁村で絶叫しておった日々です。だが時は来た。来てしまった。『ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON』リリース。

 

 起動する瞬間、かつてアーマード・コアに触れた思い出が走馬灯のように蘇り、セラフ(ACAAの隠しヤケクソボス)許せねー! 騙さないでくれよランバージャック! などと思いつつようやく動かせるとなった瞬間の感想「ウォーーーッ」「綺麗ーーーッ」「速ぇーーーッ」「ちょまドコ行くーーーッ!?」と心身共に完全に制御を失いました。雪崩れ込むままチュートリアルミッションに突入した私はオペレーター役のハンドラー・ウォルターに従ってACをビュンビュン動かしながら嬉ションちびりそうになって危なかったです。

 

 最初の関門、X(旧Twitter)のトレンドにもなっていたAH12 HC HELICOPTER。もう誰も正式名称で呼んでません。「最初のヘリ」「ルビコプター」「フロムの洗礼」などなど。とにかく強いボスとして多くの人が叫んでおりました。コイツの何が強いってプレイヤーはまだACの操作に不慣れ状態でいきなり戦わさせられるとこです。どうしたらいいの?となっているうちに抹殺される。チュートリアルはパーツも貧弱で今作の醍醐味でもあるアセンブルも出来ません。あまりにもな初見殺しに「騙して悪かったな」「やはり死にゲーか」となるわけです。とはいえそれでも当然攻略法は存在し、それを探るうちに本作におけるACとは何かがわかってくる導線になっています。ACはソウルシリーズになったと揶揄する声もありますが私は今作にこの10年で培われたフロムとしてのエッセンスが詰まっているとここで実感しました。そりゃ10年もありゃ変化もするだろうし多少なりともコレジャナイという感想がチラホラするのはわからなくない。ただ一旦バイアスを取り払って目の前の画面を見た時、自分が動かしているロボットはあまりにも肉体的で慣れなかった動きが徐々に馴染んでくる。アニメ『機動戦士ガンダム』で後に連邦のエースパイロットとなるアムロ・レイは初めてガンダムコクピットに乗り込んだ時こう言いました。こいつ……動くぞ……。最初は誰もが不慣れです。それが実戦を経る度に成長を感じることが出来る。このチュートリアルミッション。私は初見時かなりギリギリで勝ちましたが3周目までクリアした今となっては初期アセンの未強化なACでもリペア未使用で完封出来てしまいます。だから何度も負けても諦めなければいずれ勝てるという実感自体はACらしさやソウルっぽさとか抜きにしてゲームプレイヤーとしての充実感を与えてくれる良設計だと思いました。

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 AC6がダクソやSEKIROと具体的にどう違うかといえば豊富なパーツの組み合わせによるアセンブルというシステムでしょう。ここはプレイヤーによって意見というか拘りの違いがあって、すんげー強いボスを前に何がなんでもこの組み合わせで勝ちたいと拘ればそれは茨の道になる可能性があります。敵には雑魚であれボスであれパターンがあり、その対処は多種多様ですが明らかに戦いやすいアセンブルというのがあります。例えば鬼門と言われるバルテウスというボスはシールドを展開し耐久を維持しつつ到底避け切れるとは思えない弾幕で猛攻を仕掛けてくる序盤の強敵です。私は何回も負けました。コントローラーは手汗でベチョベチョです。絶対勝てねーと思わせてくるボスですがこれもそこまでで手に入る武器で対処出来るようにはなっています。パルスガンなる武器はダメージこそカスみたいなものですがバルテウスのシールドを剥がすためのこの時点での最適解であり戦闘時は格段に楽になります。しかしここで「いいや、パルスガンなんてダセェ武器は使わねえ! 俺はこれでいく!」と拘ると図らずとも縛りプレイのようになり、アセンブル次第では難易度が跳ね上がります。それをカバー出来るプレイヤースキルがあれば解決出来ますがこの辺は熟練者の域であり中々難しいところです。ここでは魂を売るのが許せない頑固者が馬鹿なわけでもなく、勝ちだけに拘る装備が逃げなわけでもない。それぞれの選択がその人にとってのプレイスタイルであり正解なわけなので、最後に勝って叫んだら過程はどうあってもいいと私は思います。諦めないことの大切さはSEKIROで嫌というほど教わったので。

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 ここから若干シナリオについて語ると、今作AC6……めちゃくちゃエモいです。スピード感あるロボット同士のヒリつく攻防は言うまでもないですが、それらを操る中の人達はそれぞれが個性的で様々な背景を背負っています。アーマード・コアにはシリーズ通してキャラクターの「顔」というものが存在しません。基本的に「名前」と「声」しかなくAC乗りならば「機体」だけが彼らの個性です。けれどその「顔」が見えないところにめちゃくちゃ「表情」を感じてしまう。たとえばプレイヤーであり主人公でもあるC4-621その上司にあたるハンドラー・ウォルターですが発売前まではラップ巻きにされた死体のような621をAC乗りとして使い捨ての駒にする冷血な人物像を予想されていました。ところが蓋を開けてみれば誰よりも621を思い、信頼し、見捨てないただただ良い人として映ると思います。先述したようにウォルターも結論から言えば最後までその「顔」を見せることはありませんが、それまでの621をはじめとする他キャラとの会話や交流を通じてウォルターとはこんな人物であることを明確にプレイヤーへと植え付けてくれます。ここで621がプレイヤーの反映であるゆえに「声」すら持たないわけです。無言のラップ巻き。言ってしまえば「物」と考えたほうが近い。ウォルターやエア、戦友ラスティ、その他企業勢との関わりを持ちながら物語に巻き込まれるうちに一人の「人」になっていくのがもうすごい。めーーーちゃくちゃエモい。もうめーーーちゃくちゃ人間。なんにも喋らないんですよ? 指示を受けてミッションをこなしているだけの脳を焼かれた強化人間なんですよ? そんな621が終盤になると「自分」の「道」を決める選択をするんです。あーーーーッもーーーーーッ……ウォルターは621に対して物語の初めにこう言います。「お前に意味を与えてやる」

 

 今作はその621の選択によって3通りの結末を迎えます。そのどれが正しかったとかはないというかプレイヤーの数だけ解釈があるようなつくりになっており確固たる正義はありません。ただこのルビコンでの戦いを通して621が見てきたものは621という無味な存在を通してプレイヤー自身に強烈に訴えかけてくるものがあります。我々は確かにここにいたんだと。そうだろ? 戦友。

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