アントーニオの肉一ポンド

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家族の話

かぞく【家族】

同じ家に住み生活を共にする、配偶者および血縁の人々。「──構成」

(引用:岩波書店『岩波国語辞典第七版』)

 

 つまりすみっコぐらしのことです。去ること11月3日、『映画すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎのコ』が公開されました。拍手!!

 この記念すべき家族の門出に際して、私はあろうことか別の映画を観に行くことにしました。そちらの作品については割愛しますがこれも公開初日であり、結果的に私は家族よりもそちらを選んでしまいました。

 

 ゴメン!

 

 ただ言い訳させてもらえるなら、私は家族のことを心から信頼していました。どう転んだって君たちは素晴らしく尊いのです。だから今回だけは許してほしい。こっちも観たかったんや。とはいえ私は自分が許せませんでした。どんなに信頼があったとしても彼らを裏切ってしまったのは事実です。

 私が彼らと初めて出会ったのはもう二年ほど前になりますか。厳密に言えば生まれる前から共にあったわけですが神の悪戯か悪魔の仕業、私は彼らと共有したはずの記憶を消されたがゆえに初めは彼らのことをハロー何某の仲間かなんかかと思って遠くから見ていました。

 その日は朝から暇を持て余し特にしたいこともなくただ時間を無為に過ごしていた私でした。なんか映画でも観るかと思いサブスクチャンネルを徐に開きます。これから見ようとするもののユーザーレビューをいつもは見ないでいる私でしたがその作品は異様に評価が高く、猜疑心の塊であるところの自分は「こんな子供だましの絵柄がなんぼのもんじゃい」とついつい目を通してしまいました。そこにはとにかく泣けると誰もが書き込んでおり、大人こそ観るべきなど宣う輩も多々見られたのです。私はそのことでより一層疑いを強めました。作品の名は『映画すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』といいました。

 始まった途端Eテレのようなほわんほわんした空気がながれ、いかにも可愛いでしょといったようなあざとさを持つキャラクターが優しげなナレーションに連れらてひょこひょこ動いておりました。はいはい可愛いねえと、俺の全米はこんなもんでは泣かんよと冷めた目つきで観ておったわけです。いまいちのめり込めないせいか残りの尺なども気にする始末。こんなことなら当時ハマっていたApexの実況でも見ときゃよかったなとなってきたあたりで物語は半分あたりを過ぎた頃、私は彼らの様子に少し変化を感じだしたのです。ラスト10分、涙が止まりませんでした。思い出したのです。まだ私が一歳にも満たない頃、自分は彼らと共にあり過ごしてきた日々の記憶を。すみっコたちは私の家族でした。

 

 そんな家族が頑張る姿をこのまま見過ごしていいのか。否。否、否!否!いいわけがない!

 気づけば朝8時からの上映チケットを買っていた私でした。流石に早すぎて家族連れどころか人自体少なかったです。人が少ないことでむしろ私みたいなそこそこ歳を食った者が一人で入場する悪目立ちは一入だったと思います。関係ない。なぜならすみっコは家族だから。上映が始まってからコンマ一秒たりと見逃せる場面がありませんでした。最後の場面では逝きかけました。本作は劇場で観ることを是非おすすめします。その意味がある作品です。口にこそ出しませんでしたが心は「あぁ」とか「しろくまーーーーッ」とか「とかげ(ニヨニヨ)」と相当気色悪い仕上がりになっていたように思います。子が運動会で頑張る姿を見守る時ってこんな気持ちやねんな。

 見終わった後、私はポケットからハンカチを取り出し目元の湿りを拭き取ると外に出て空を見上げました。そしてそっと呟きます。ありがとうございました感謝感謝感謝ありがとーーーッすみっコぐらしーーーッ

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