アントーニオの肉一ポンド

返却期限を過ぎました。

はじめましてと非実在性-文フリ大阪に際して-

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 晴天。台風の影響もまるでなくとりあえずは一安心といったところで、前日までに原稿(それは苦しい)を仕上げた私に死角はなかった。ならやってもええだろとSwitchを起動してハマったゲームのイベントに馳せ参じる。それでも時間には余裕があって、なんなら腕時計の電池交換もしてしまおうかと町の時計屋に足を伸ばした。見てもらうとどうも専用の器具が必要でそこでは難しいとのこと。ただ店主の穏やかさに絆された私はおいくらですかと問う。まあまあ手間をおかけしてタダで見てもらうのも気が引けたので。しかしながら店主「治してこそ頂戴しておりますので」とかえって頭を下げさしてしまい、私はおでこを掻いて申し訳なさそうに笑った。そこで連絡が入る。予定が変わったできれば早めに来てほしい、と。私は今一度おでこを掻いた。その日は文フリ大阪だった。

 とはいえどう見積もってもお昼前が関の山かと申し入れ、とりあえず時計はあきらめてポケットにしまう。二、三おつかいを頼まれたのでそれをこなした後、取り出してみた動かない腕時計の針を眺めながら頷いてタクシーに乗った。

 東京の時とは異なってスッと入場出来た。とはいえ会場は既に賑わっており、東京の時から懐かしさすら覚える次第。渡すものもあったので真っ直ぐに我らが「みみず書房」のブースへ向かう。お元気そうで何よりです。今回みみずの本を販売するはもとよりお菓子をくれた方にはオマケで未発表原稿をお渡しするとTwitterでは掲げたものの店先には報せもなくまさに隠れメニューとして企画を忍ばせていた。おかげで体調かんばしくなかった部分はあれど相変わらずの文化祭的空気感に少しずつ元気を取り戻す。といったところで早速栄養補助食品をいただいた我々。なんだろう懐かしい形。私は栄養補助食品を愛していた。

 時間は緩やかなようで速い。歳のせいかそんなことを思いながらも本は売れて有難い。そうこうするうちに売り子を手伝っていただける方がはるばる東京から大阪へ到着されたのだが伝えた地名に手違いあって見事迷宮入りされた。土地勘のない人にとってはどこを歩いているかもわからない大阪のいいところ。なのでお迎えにあがりますと歩いて向かう。この街に来た頃の自分がひたすら右往左往していたのを思い出した。

 目印のネコを見つけ、かるく挨拶を交わした。Twitterにいる人は本当にいる。非実在性(見るまではそれはない)にしたがって認識をあらためる。はじめてのはじめましてがその人同士の中でこの世には一度きりしかない。尊い瞬間である。

 布陣を揃えて死角のなさに強度が増したゆえ、飯を食うかと階下のコーヒーショップに。そのタイミングでまた非実在性の接触非実在性のまま確認する。ホットサンドを詰め込んだハム太郎の私は急いで会場に戻り、Twitter経由で知り合えた方々と対面した。いるんだ、そうだよな。Twitterの私はあくまで公共広告機構であり、実在とのギャップは俄かに否めないがどうやら狂った人枠として捉えられていたようで手応えを感じた。真っ当に生きていきたい。当代きっての人見知りゆえ、それを隠そうとせんばかりにテキトーな弁を立てつつ感謝があったことはここに表明しておこう。

 

 さてさて会場も佳境。長らくFF内と界隈で囁かれる間柄の大阪の首魁M氏に挨拶へ。また初対面であった。相方の友人はM氏の中でイメージと繋がったようだが私は今まで粗野という感じだったらしい。「粗野かー」と私は言った。優しくいじっていただいて誠に感謝を。またいつかどこかでこんな場に立ち会えたらと思いながらも店じまい。

 

 文フリが終わった後は渋い茶店でお茶を嗜み、キラキラした少女の熱いテニプリ談義を拝聴しどうにかこうにかいつも真っ新な気持ちで泣けるという巻数までは辿り着きたいと気持ちは駆けた。さらには何とは言わんが家元と人たらしの青年に合流し肉を食べる。味見したタンを「生ですな」と網に戻して止まった換気扇の向こう側で蜃気楼と化した私は何を言ってるのかわからねえと思うが蜃気楼だったのだ。

 蜃気楼というとまさに一日が朧げに始まりまた浮遊感を持って終わろうとするその様に喩えられ、そうであってもこれはあったのだと、一足先に大阪を後にするともに本を売った可憐な友人を見送ってからるつえぢ二人で歩いているときに思い返していた。はじめてのはじめましてはその一度きりだが縁は続くものと世の摂理である。私はつくづくこれが大事なものだとあらためて痛感する。全ての出会いに感謝を、と何やら宗教的様相を見せ始める前に床に就こう。

 

追伸:ふみちゃんの持ってきたぬいぐるみクッションがすみっコぐらしとすぐに気付けなかったことだけが悔いです。家族なのに。