アントーニオの肉一ポンド

返却期限を過ぎました。

朱坂ノクチルカ『苗代沢事件簿─はぐれ者どもの300日戦争─』を読む

"俺は……! 巨乳でふわふわの髪のッ! いい匂いのする女の子が好きでしゅ!"

 

  えー、これが苗代沢千佳ちゃんです。

 

 というわけでして今日(2022/6/5現在)は朱坂ノクチルカさんの『苗代沢事件簿─はぐれ者どもの300日戦争─』を読んでおりました。今作はまだ連載中であり、とりあえず第一章にあたる「Case.1 ウェルカム・トゥ・アンダーグラウンド」までの感想になりますが紹介していきたいと思います。

 冒頭に引いたのは作中のセリフにあたります。主人公である苗代沢千佳、カナをふるとこれを"ナシロザワカズヨシ"と読みますが、共通言語として彼のことは"チカちゃん"と呼ぶように。もうまずここですね。サブタイトルにもアンダーグラウンドとあるように、今作は日常の裏で蠢めく闇社会にスポットを当てたものとなります。ゆえに殺伐とした雰囲気が描かれるわけですが、その中にあって主人公のチカちゃんのファニーさが一筋の癒しとなっている。アウトローとは縁もゆかりもない一般人。おっぱいが好きで彼女いない歴=年齢の20代の若者が紡ぐ「事件簿」なわけです。他の登場人物に関しては生粋のヤバい方々なわけですが、彼はそこに飲み込まれそうな途上にあるフツーの若者です。ゆえに一般社会の視点を持ちながら一般的でないものを映し出すカメラの役割を担っている。しかしながら彼も人ですからただただ闇社会を描写するのでなく、そこに己が感情を投影させるわけです。つまり、ここは、ヤベー……と狼狽える様が大変エンターテイメントとなっておるんですね。アウトローの衝突を描けば自然と作風、文章というのはシリアスに走りだし重くなっていくものです。ノワールはそれでよいという向きもありますが、私自身は同じシリアスを描くとしてもどちらかといえばジョークを伴うものが好きなので、チカちゃんの存在が中心に据えられていることに感謝さえありました。とてもいいキャラクターだと思います。

 若干のネタバレを含むとそんな彼がそれまでいた世界を文字通り吹っ飛ばして、アングラにウェルカムするんですけど、その手助け(?)をした人物がこれまた素敵に描かれております。ミソノさん(偽名)はチカちゃんにとって天使か悪魔かとこのへんも見どころだと思うんですけれど、今わかることで言えば彼は闇社会の右も左もわからないチカちゃんにとって頼れる灯りであります。人類は火をなくして今日には至れなかったわけですからミソノさん(偽名)の存在は人類の宝!ナイス発明!と言って過言ないわけで、朱坂さんもう特許取りましょう!……取り乱しました。ともかく、ミソノさんとチカちゃんが今後バディとなってなんかしらの事件に挑んでくんだろうな素敵、、と思うていたら流石主人公、早速ヤベー話に巻き込まれヤベー奴に目をつけられます。

 正義のヤクザ、タカ。関西弁で熊のような凄みがある。なんだかポケモンの解説みたいになってしまいましたが当人はかなりバイオレンスなご様子でチカちゃんもビビり散らかしておりました。ただヤクザなりに矜持を持っているようでチカちゃんがカタギなら見逃すと弁えがある話せるヤクザでした。よかったねチカちゃん!

 

 

 そうはイカの塩辛です。これは事件簿。バイバイねアリガトねで帰れる電車はもうないんです。現場にミソノさんがご到着されすったもんだのキリキリマイが、今、始まる。この場面への導入が無茶苦茶よかったです。章のボスとしてタカが君臨するとこは痺れました。バトルものの様相も呈してきて穏やかじゃねーなとなったところでいよいよ発揮されるチカちゃんの主人公ヂカラ! 私のために争わないでのヒロイン力! ヤクザを前に根性見せたらァァの英雄的素養。君が主役で本当によかったと思わせてくれる。そんな勢いに巻かれたというか乗せられたというか彼は引き返せなくなりましたヤッター! バンザーイ!×三唱。

 

 物語はまだ続くわけですが、強固なキャラ造形と軽妙なテンポの良いストーリー。これからも目が離せませんねハイッ!(リンク貼っておくので読んでみてください!イラストも素敵ですよ〜 ギャラ? もらってないもらってない!)

苗代沢事件簿─はぐれ者どもの300日戦争─(朱坂ノクチルカ) | 小説投稿サイトノベルアップ+